サーマルグリース
新品のリテールクーラーにはヒートシンクのCPUに接触する面に元々熱伝導を良くするためにグリースが塗られています。このグリースは潤滑を行うものではなく、熱の伝達を良くするために使われるのでサーマルグリースと呼ばれています。
間にグリースが入っている状態よりも、金属同士を接触させた方が熱を伝えやすそうな気がしますが・・・
実は金属表面は完全な平面ではなく、拡大すると下のマンガのようにデコボコしています。このでこぼこした状態を面祖度という単位で表します。これは緑色がCPU、黒色がクーラーのヒートシンクとして、CPUにクーラーを接触させた時に真横から拡大して見た物としてイメージしてください。
CPU、ヒートシンクとも見た目は平面ですが、拡大するとデコボコしているので、お互いに接触させても白い部分に隙間が発生してこの間には空気が含まれます。
この空気が曲者で、空気が含まれることで熱の伝わり方を邪魔してしまいます。
面粗度はちょっと調べてみましたが分からなかったので見た感じということでRmax=1.6s〜3.2ぐらいとします。このRmax=1.6s〜3.2という単位はμmで表され、最大高さでデコボコの最も山が高い部分と最も谷が深い部分との差を意味しています。
山と谷がある表面同士を接触させた場合、横から見ると山と山、山と坂(山と谷の間)、山と谷、谷と谷の3パターンが見られます。実際に接触している場所は山と山、山と坂で、山と谷、谷と谷は金属同士が接触しておらず空気が含まれています。
この空気が含まれている場所の金属同士の間隔をRmax=1.6s〜3.2を考慮し平均して1.6〜3.2[μm]としましょう。
え?マイクロってミリの千分の一でしょ?そんだけで温度変化があるの?
空気の熱伝導率(λ[W/mK])は温度により変化しますが、0℃の時はλ=0.0242[W/mK]、20℃の時はλ=0.0256[W/mK]、50℃の時はλ=0.0256[W/mK]となります。
これを使い空気の厚さで温度がどれだけ伝わりにくいかを考えてみます。
理想はCPUの温度がヒートシンクにすべて伝わることなので、すべて
伝わった場合は双方の温度差は0[℃]となります。
ですが、間に空気が入っている場合空気が熱を伝えにくい役割をしているため、CPUに比べてヒートシンクの温度は何度か下がります。このときヒートシンクの温度が下がるということは十分な発熱をすることができずCPU温度は上昇します。
逆にCPUに比べてヒートシンクの温度が下がりにくければ、空気の量が少なくなっている状態なので、CPUを十分冷やすことができCPU温度は下がります。
以後、計算元はPhenom TDP=140[W]をもとにします。
Fig.1
g [μm] |
1 |
2 |
3 |
10 |
儺 [K] |
3.9 |
7.8 |
11.7 |
39.1 |
何度も言いますが、上のグラフは温度差:儺が
小さいほど温度が伝わり安い事を示しています。
たった1[μm]で3.9[℃]、3[μm]の隙間があると何と11.7[℃]も温度が下がってしまいます。下がってしまう=CPUが冷えにくくなる状態です。面粗度は無視できません。
ということでCPUクーラーにはグリースが塗られていますが、これは空気の熱伝導率に比べてグリースの熱伝導率のほうが高い(空気よりも熱を伝えやすい)ためです。
で、グリースも色々種類がありますが、高いグリスほど高性能らしいということはわかりますが…
またグリースは塗り斑がないよう薄く均一にとか、ちょっと多めとか、多すぎたら冷えないので…
高性能のグリスよりも、塗りやすさ重視で…
ってよくわかりません。ということでこの辺りについても考えてみました。
Fig.2
Fig.1とはX軸、Y軸ともに上限が変わっているので注意してください。
空気の場合に比べ、グリースは粘度が高く、熱伝導率も高くなっています。このため、塗る場合CPUとヒートシンクの間におそらく数十〜[μm]のグリースの層ができます。
グリースを塗らない場合はCPUとヒートシンクの隙間は1.6〜3.2[μm]、グリースを塗った場合の隙間は数十〜[μm]なので、その隙間の差は数十〜倍となります。
この差が熱伝導にどのように影響するのか?上のグラフを見れば一目瞭然です。
一般的なグリース
アイネックス シリコングリス1.5g GS-01 の熱伝導率は0.55[W/mK]で、これは空気の21倍熱を伝えやすくなります。
リテール品にグリースが塗布されていることを考えるとグリース厚さはおそらく25[μm](コピー用紙の1/4厚さ:温度差4.5[℃])ではないかと推測されます。これから考えるとグリースなしの隙間は3[μm]程度?
Fig.3
次に市販のサーマルグリースに目を向けると熱伝導率はおおよそ4〜10[W/mK]です。
これらのグリスを使用した場合CPU-クーラー隙間を25[μm]とすると温度差は0.1〜0.5[℃]、すこし厚めに塗ったとして50[μm]の場合でも温度差は0.2〜0.9[℃]と市販サーマルグリースの優位性が明らかになりました。
当然CPU−クーラー隙間は小さければ小さいほど熱を伝えやすいのですが、リテールクーラーに付着しているグリースと比較すると数℃の減少がありますが、5[W/mK]以上は熱伝導率、グリース厚さともそれほど気にする必要はないと考えられます。
但し!それほど薄く塗布する必要はありませんが、均一に空気が入らないよう注意深く作業する必要があります。何せ1[μm]の厚さでも空気が混入してしまうと熱伝達が極端に減少してしまいますから…これはFig.1を見ても明らかです。
理想はCPU表面に隙間なく均一に広がるだけの必要なだけのグリースを塗るのですが…言うは易し。
多少厚くなっても、少々熱伝導率が低くても熱伝達に影響はあまりないので、均一に塗ることを考えるとなるだけ粘度の低いものを選択する必要があります。
ですが例えば、
ZALMAN ZM-STG1 スーパーサーマルグリス は液体で接触部分に非常に薄く塗ることができ、尚且つ 熱伝導率は4[W/mK]と高いのですが、どうやら耐熱温度が非常に低いようです。CPUに使用した場合ドライアウトと呼ばれる現象が発生し、成分が蒸発し熱伝導効果が激減するようですね。このグリスは温度の低い場所用?
Fig.4
ところで、CPU-クーラーの間には熱伝達を向上させるためにグリースを塗布しますが、グリース以外にサーマルシートと呼ばれる板を挟むこともあります。
WIDE WORKのThermo-TranzM50α(製造元:
大塚電機株式会社)熱伝導率50[W/mK]という高い値を持っていますが、厚さはグリースのそれと比べて数十倍の0.5[mm]=500[μm]となっています。この厚さで冷えるのか?
結果から言うと結構冷えるようです。温度差も1.5[℃](クーラーの圧着により厚さ・大きさが変わらない場合)となります。
管理人もこのシートを使用していますが、Athron X2 5400+ 65[W]のCPU温度がアイドリング時では殆ど変わりませんでしたが、高負荷時で5[℃]程下げることができました。
因みに、クーラー圧着により厚さが10[%]薄くなった場合、温度差は約1[℃]となります。
製造元の大塚電気株式会社によると厚みはある程度調節が可能だそうでHPに記載してある0.2[mm]でCPU全体を覆った場合温度差は0.4[℃]まで下げることができます。温度差がこの程度ならば塗りにくいグリスなんて必要ない?誰かサンプルくれないかな〜
でも、0.2[mm]のシートを扱うの…塗りにくいグリースを塗るよりは簡単かもしれませんが、
グリースを均一に塗る自信がないという場合は選択肢の中に十分入る価値があると考えられます。